Ⓒ ちばてつや / 中公文庫
一人一人の名もなき兵士たち
考えに考えた末に命がけで敵艦に体当たりする特攻兵の真実
紫電改のタカの連載がスタートした時、筆者はただならぬ期待を持って読み始めた。1960 年代前半、当時は「戦記もの」といわれる少年マンガがかなり存在していた。いかにも少年マンガらしく、「天才戦闘機乗り」とか、「勇気溢れる少年兵」が活躍するものが多かった。それなりに反戦の気持ちは表現されてはいるが、どうしても(読者のニーズゆえか?)主人公の「戦いぶり」が目立つものが多かった。そんな時代に「あのちばてつやが描くのだから、必ず真の反戦ものとなるに違いない」と少女だった筆者は期待したものだ。女の子はおおむね平和主義を良しとするが、その実、戦いの現実は知らぬまま「戦争をするのは男の論理」と決めつけていたふしがある。「紫電改のタカ」は期待以上の衝撃を与えてくれた。単なる甘っちょろい反戦ものではなく「考えに考えた末に命がけで敵艦に体当たりする特攻兵の真実」が描かれていたのだ。あの時、あの局面で飛び立つ事を選んだ多くの若い命。彼らの行動を単純に「現実を見ていない」「愚かな行為」「だから日本はダメなんだ」と決めつけようとしていた思春期の女の子の思い込みを粉々に打ち砕いたラストシーン。 ——その時、その場にいた当事者たちの心そのものに思いを馳せなければ口先だけの平和願望に終わってしまう。一人一人の名もなき兵士の立場に寄り添うきっかけを与えてくれる名作だ。
推薦コメント
紫電改のタカの連載がスタートした時、筆者はただならぬ期待を持って読み始めた。1960 年代前半、当時は「戦記もの」といわれる少年マンガがかなり存在していた。いかにも少年マンガらしく、「天才戦闘機乗り」とか、「勇気溢れる少年兵」が活躍するものが多かった。それなりに反戦の気持ちは表現されてはいるが、どうしても(読者のニーズゆえか?)主人公の「戦いぶり」が目立つものが多かった。そんな時代に「あのちばてつやが描くのだから、必ず真の反戦ものとなるに違いない」と少女だった筆者は期待したものだ。女の子はおおむね平和主義を良しとするが、その実、戦いの現実は知らぬまま「戦争をするのは男の論理」と決めつけていたふしがある。「紫電改のタカ」は期待以上の衝撃を与えてくれた。単なる甘っちょろい反戦ものではなく「考えに考えた末に命がけで敵艦に体当たりする特攻兵の真実」が描かれていたのだ。あの時、あの局面で飛び立つ事を選んだ多くの若い命。彼らの行動を単純に「現実を見ていない」「愚かな行為」「だから日本はダメなんだ」と決めつけようとしていた思春期の女の子の思い込みを粉々に打ち砕いたラストシーン。 ——その時、その場にいた当事者たちの心そのものに思いを馳せなければ口先だけの平和願望に終わってしまう。一人一人の名もなき兵士の立場に寄り添うきっかけを与えてくれる名作だ。
里中 満智子(マンガ家 / マンガジャパン代表)