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2019.12.24

レポート記事シリーズ、今回は「これも学習マンガだ!」選出作品も含むマンガの配架に取り組まれている、板橋区立若木小学校を取材させていただきました。ごく一般的な公立小学校で、マンガはどのように取り入れられ、子どもたちはどのように受け止めているのか。小学生の読書事情についてのお話などを伺いました。

初めての挑戦! 選ばれた最初の7作品

若木小学校は、児童数約500人の公立小学校です。
図書館では一般的な児童書、図鑑、絵本、学習まんがなど約1万冊が配架されています。

  

  

学習まんがではない一般マンガを試験的に扱い始めたのはごく最近。
若木小学校では初めての試みであるため、現在のところ、運用は慎重に行われています。
図書主任の先生と担当司書さんが選りすぐった作品を専用ブックトラックに配架し、通常はトラックごと別室で保管。

「読書の時間」など、教員または司書が同席できる時間のみ図書館内への持ち込みができる形とし、閲覧は館内のみに限定しています。

「これも学習マンガだ!」選出作品からは、『ちはやふる』『バクマン。』『決してマネしないでください。』『フットボールネーション』『聲の形』が選ばれていました。

 

<芸術「ちはやふる」これも学習マンガだ! >
<職業「バクマン。」これも学習マンガだ!>

 
<科学・学習「決してマネしないでください。」これも学習マンガだ!>
<スポーツ「フットボールネーション」これも学習マンガだ!>


<多様性「聲の形」これも学習マンガだ!>

ほかに『PLUTO』(浦沢直樹×手塚治虫、プロデュース:長崎尚志)、『SLAM DUNK』(井上雄彦)が配架されています。

 

選書の基準はあくまで「学び」。教員としての思い

この一般マンガの配架に取り組まれた図書主任の中井先生に、詳しくお話を聞かせていただきました。

―― 一般マンガの配架を始められたのは、どういった背景からだったのでしょう。

中井先生(以下同):
もともとは私自身、読書が好きじゃない子どもでした。でも、マンガなら読めた。マンガがきっかけで、難しい言い回しだったり、情報を頭の中で整理することを覚えたと思っているし、漢字の読み書きも得意になりました。そうやってマンガから受けた恩恵を大人になってから感じることが多かったので、今の子どもたちにも、学習の一環としてマンガに触れてほしいと思っていたんです。それで、図書主任になったからにはマンガを入れたいなと思って、司書さんと相談しながら準備を進めていきました。

――こちらの7作品は、どういった基準で選書されたんですか?

切り口としてはスポーツとか、職業とか…あとはやっぱり学習につながるものというところですね。「これも学習マンガだ!」のリストも見させていただきながら。「小学生からOK」の表示があるので、参考にしやすかったです。

候補に挙げた作品は全部ひと通り読んで内容は把握したうえで、念のため、教員が立ち会う場でのみ閲覧できるという形で、まずは運用してみています。自由に手に取って見てほしい思いもありますが、子どもたちもマンガというものにまだ慣れていない面もあるので。

――「コロコロコミック」「ちゃお」などの、子どもたちが好みそうな、いわゆる児童誌の掲載作品は置かれていないですね。

そうですね。ギャグ要素が強かったり、恋愛ものだったり、という作品が多いので…そういうマンガは、家で読んでもらう分にはもちろんいいんですけど、学校図書館に置くのはちょっと違うかなと考えています。

児童には、「マンガ喫茶じゃないからな」とよく言っているんです。「先生たちにはこういう思いがあって、ここから何かを学んでほしいからマンガを置いているんだ」という考えがあくまでベースにあるので。そのねらいは、ぶれさせずにおきたいと思っていますね。

――子どもたちの反応はどうですか? 

本校はバスケをやっている子が多いのもあって、『SLAM DUNK』は結構、もともと知っていたという子が多いです。読んだことはなくても、お父さんお母さんが持っていて家にあったとか。ただ、そういう意味でも『SLAM DUNK』はどうしても少し前の時代の作品という感じはあるみたいで、『バクマン。』『ちはやふる』のほうが人気は高いかな、と思います。

きっかけとして、まずは「読む」ことに慣れてほしい

――図書主任を担当されて、マンガも含めた近年の子どもたちの読書傾向をどんなふうにご覧になっていますか? 

『AI vs 教科書が読めない子どもたち』という本が話題になりましたが…教科書じゃなくて、それこそマンガであっても、「読む」「読み取る」力が落ちている傾向があるとは思いますね。情報の取り入れ方として、動画とか、視覚的なものがかなり優位になってしまっていて。

「ん?」と思ったのは…たとえばマンガを読む時に、私たちは普通、1巻から順番に読もうとするじゃないですか。ところが、二十何巻とかの途中の巻をいきなり手に取る子がいるんですよ。それをパラパラーッとめくって、スッと本棚に戻したりする。「読む」という感じではないんですよね。そんなふうに、マンガであっても、「読む」ということに没入する子が少なくなったなと思います。

クラスみんなで図書室に来ている時なんかは、読むことに慣れている子と、慣れていない子の差が顕著に出ますね。家でも読んでいるんだろうなという子は、自然に(読書に)入っていくんですけど、そうじゃない子は常に選んでいる感じです。取ってきては見て、戻して、取ってきて…という繰り返し。高学年でも、絵本をパラパラめくる程度だったり。

だからこそ私は、マンガに可能性を感じていて。そもそも「読む」という経験自体が圧倒的に少ない子たちなので、まずマンガから入って、「読む」ことに慣れていってもらう、というのが第一ステップになるかなと思っています。

――同じ内容でも、映像で「見る」より「読む」ほうが“自分ごと”化できる面がありますし、「マンガを読む」行為は、キャラクターになりきる側面もあるので、人の気持ちを想像する、理解する力を養うことにもつながりますね。

あとは、やっぱり「読む」行為って、情報を頭の中で整理していく過程が必要になるじゃないですか。整理しつつ、わからなくなったら戻って読み返せる。それもやっぱりマンガの良さだと思うんです。動画も戻って見ることはできますけど、基本的には一方通行の…見る側が意識しなくても、流し見できてしまうものなので。

たとえば、私は『HUNTER×HUNTER』(冨樫義博)が子どもの頃からずっと大好きだったんです。教員として子どもに薦めることはできない作品ですけど(笑)、冒頭で言った複雑な情報を整理して読み進めていくことなんかは、あの作品から学んだところがすごく大きいと思います。
そんなふうに今の子どもたちにも、マンガを通じて何かを得てほしいなと思いますね。

教育現場でのマンガ、公共機関でのマンガ

――授業のカリキュラムの中で、マンガが使われることはあるのでしょうか。

国語や道徳の授業で少し触れることがありますね。マンガそのものというよりは、たとえば手塚治虫さんの生涯とか、『ドラえもん』のエピソードを道徳で扱う、といったことが多いです。『聲の形』という作品は映画にもなり、特別支援教育推進の理解・普及の趣旨で文部科学省とタイアップもしました。

あとは、マンガではないですけど、学習要素がありつつ、小学生の興味を引くように作られた児童書が増えていますよね。『ざんねんないきもの事典』(高橋書店)とか、『やばい日本史』(ダイヤモンド社)とか。6年生になると授業で歴史を扱うので、その導入にも活用できます。

図書室の本でも、朝日新聞出版の「サバイバル」シリーズなんかは、ボロボロになるまで読まれています。あれは科学の学習まんがですけど、3,4年生くらいだと、圧倒的にあのシリーズの利用が多いですね。

――いわゆる学習まんがも含め、マンガ的なもののほうがやはり、今でも子どもたちの関心を引くということですね。学習まんがは多くの学校図書館でも抵抗なく導入されていますし、そういう意味では、一般マンガを公共図書館をはじめとするサードプレイスで配架して、学校図書館との「棲み分け」をするような形にしても良いのかもしれませんね。

公共図書館には、ぜひもっとマンガを扱ってもらえたらいいなと思います。学校図書館で扱えなくても、公共図書館に置いてもらえれば、公立小学校としては団体貸出などの形で連携もできるので。図書館で本を借りる、本を読むという習慣が、まずはできてくれるといいですよね。

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【取材後記】
「読む」行為に慣れるためのきっかけにすること、広い意味での「学習」の入り口にすることなど、小学校の現場でマンガを扱うことには大きな意義や可能性があるように思われました。一方で、まだ十分な読解力・判断力を養えていない子どもたちに、無制限にマンガを読むことを推奨するのは、教育現場としては難しい部分もあるようです。
「これも学習マンガだ!」はこれからも、幅広い世代にとっての「マンガで学ぶ」こと、edutainmentを浸透させることを目指して、いろいろなチャレンジを行っていきたいと思います。中井先生、ありがとうございました!