2021.03.28
「これも学習マンガだ!」を題材に、領域横断研究グループ「人と情報のエコシステム(HITE) 」のメンバーと「新しい生活様式(=ニューノーマル)に活きる学び」を語る無料配信トークイベントを2020年12月に開催しました。
▼当日のイベントの様子(YouTube動画)
登壇者の一人である髙瀨堅吉さんは、心の発達の研究者。成長に際して起こる心の病のメカニズムを生物学的な観点で解き明かす研究をしています。高瀬さんの視点から「学習マンガ」5作品を紹介していただきました。
髙瀨堅吉/自治医科大学医学部 教授。日本学術会議連携会員・若手アカデミー前幹事。専門は臨床発達心理学・発達生物心理学。
髙瀨堅吉さんの人類と社会を悩む5冊
●『はじめアルゴリズム』(三原和人/講談社)
研究者は大きく分けると、何かを開発するタイプの研究者と、”基礎研究者”がいる。基礎研究者とは自然の中にある理(ことわり)つまり法則を探究する人たちのこと。その法則性を記述する際に最も用いられるのが数学だ。主人公ハジメは世界を数学で記述していく。彼の感性や数学の美しさを体感できる作品。またハジメの才能を見出す老数学者が登場する。才能の限界といった研究者の人生が描かれているのもグッとくるポイント。
▼『はじめアルゴリズム』これも学習マンガだ!紹介ページ
●『アンドロイドタイプワン』(YASHIMA/双葉社)
アンドロイドが社会に普及した近未来が舞台。主人公の人間の男性がアンドロイドを購入し、物語は始まる。人とアンドロイドという関係が、主人公がアンドロイドに対して「人」として接することで、アンドロイドの中身は変わっていなくても徐々に人として扱われるようになっていく。これは人と人の関係でも同様で、人を人とするのは、対象の変化ではなく、人として扱うわれるからではないか、ということがわかりやすく描かれている。人に対する敬意とは何かなど考えさせられる作品。
●『LIMBO THE KING』(田中相/講談社)
コロナウイルスが流行っていても、自分がかかっていないと、どこか遠いことのことのように感じてしまうことがある。作品には「眠り病」という、治すには一人の患者に対して医療従事者が二人必要な病が出てくる。まさにコロナと同じで、その状況が続くと医療現場は逼迫していく。現在、コロナウイルスの感染が拡大している社会にいる状況では、その社会を客体化してみることは難しい。そんな自分たちが、今のコロナ禍の時代を客体化できるとも言える作品。
●『ブルーピリオド』(山口つばさ/講談社)
芸大を目指す高校生の話。思春期の頃は空虚感を感じることが多い。主人公は器用貧乏で何をすればいいかわからない、けれでも何でもこなせてしまうタイプ。そんな彼が美術の時間に感情を揺さぶられるものにたまたま出会う。美術の先生が、斜に構えている少年の気持ちを現実にググっと近づけるシーンに目頭が熱くなる。世間から離れている気持ちを近づける大人の言葉は必読。
▼『ブルーピリオド』これも学習マンガだ!紹介ページ
●『火の鳥(異形編)』(手塚治虫/朝日新聞出版)
男装した女性の侍が、父が病で死ぬことを願い、どんな病気でも治せるという八百比丘尼(やおびくに)を殺す。しかし、その女性の侍が八百比丘尼にならざるを得ない状況になり、自分を殺しにくる自分を待たなければいけないという状況に陥る。そんな因果応報を学べるマンガである。そして、最初に殺しに向かうシーンと、自分が未来の自分に殺されるシーンは微妙に違って描かれる。因果は円環ではなく螺旋であり、いつかは救われる時が来るんじゃないかという予感をさせる哲学的な本。
▼『火の鳥』これも学習マンガだ!紹介ページ
▼「人類と社会を悩むマンガ」とは? HITE-Media×これも学習マンガだ! トークイベントレポート(HITE-Media)
https://hite-media.jp/journal/478/