目をそらさないことから全ては始まる
元・産婦人科看護師が描く、リアルな「命」のエピソード
たとえば、電車の中で赤ちゃんが泣いている。お母さんは困っている。乗客のひとりが苛立ち、舌打ちをする。この時代、珍しくない光景だ。相手を理解しようとせず、「見たくないもの」として排除しようとすることで、互いに傷つき、疲弊する人々。産婦人科医院で看護師をしていた作者自身の経験が元になっている本作は、そんな「時代の閉塞感」を切り開く糸口となる作品かもしれない。作中には、いろいろな「命」の例が登場する。生まれてくることができなかった命、せっかく生まれてきてもひどい目に遭う命、試練を乗り越え、成長していく命…。その過程はうまくいくことも、いかないことも、「なんとかなる」こともある。シンプルな絵柄で、非・ドラマチックに描かれるそれらの「例」に、考えさせられるところは大きい。日ごろ私たちが視界に入れようとしていない、そんな「自分と異なる存在」を知り、受け入れ、なんとなく思いやることが、いまの時代には必要なんじゃないだろうか。それは、想像するより少し、シビアな世界かもしれないけれど。
推薦コメント
たとえば、電車の中で赤ちゃんが泣いている。お母さんは困っている。乗客のひとりが苛立ち、舌打ちをする。この時代、珍しくない光景だ。相手を理解しようとせず、「見たくないもの」として排除しようとすることで、互いに傷つき、疲弊する人々。産婦人科医院で看護師をしていた作者自身の経験が元になっている本作は、そんな「時代の閉塞感」を切り開く糸口となる作品かもしれない。作中には、いろいろな「命」の例が登場する。生まれてくることができなかった命、せっかく生まれてきてもひどい目に遭う命、試練を乗り越え、成長していく命…。その過程はうまくいくことも、いかないことも、「なんとかなる」こともある。シンプルな絵柄で、非・ドラマチックに描かれるそれらの「例」に、考えさせられるところは大きい。日ごろ私たちが視界に入れようとしていない、そんな「自分と異なる存在」を知り、受け入れ、なんとなく思いやることが、いまの時代には必要なんじゃないだろうか。それは、想像するより少し、シビアな世界かもしれないけれど。
ヤマダ トモコ(マンガ研究者 / 米沢嘉博記念図書館)