2019.01.23
2018年12月15日、これも学習マンガだ!事務局は、選出200作品を実験的に日本十進分類法(NDC)に基づいて分類してみるワークショップを開催しました。
今回は、ワークショップに先立ち、司書のミソノさんをゲストに迎えて開催したトークイベントのレポートをお届けします。ユニークな示唆に富んだお話、必読です。
マンガの“効能”――マンガは図書館に必ず置かれるものになる!
山内康裕(以下、山内):
これも学習マンガだ!事務局長の山内です。
今日はワークショップに先立つイベントとして、司書のミソノさんをお迎えしてトークをさせていただきます。
では、簡単に自己紹介を。
ミソノ:
はい。私は「シャッツキステ」という、秋葉原の隅っこにある、“私設図書館”をコンセプトにしたカフェでスタッフをしていて、同時に、専門図書館で司書としても働いています。
ふたつの仕事の中でアニメやマンガの会社さんとやりとりをしていたり、マンガ家さんの原画展をしたりもしていて、今日のテーマとも関わりがあるということで呼んでいただきました。
今日はよろしくお願いします!
山内:
よろしくお願いします。図書館とマンガの関係ということで、いろいろとお話を伺えればと思います。
ミソノ:
私、これからの図書館はどんどん、当たり前に、マンガを置くことが求められていくと思うんです。
一つには、たとえば立川まんがぱーくさんのように、人を呼べる!っていうことで、マンガを使って来館者を増やそうと思う上層部の人が増えるんじゃないかなというのと…もうひとつは、今の人たちにとっては、マンガってもう、完全に生活の中に馴染んできているものじゃないですか。
昔はマンガなんて読んじゃダメって長らく言われていたけど…今の人たちはマンガを読んで育ってきて、大きくなってもマンガを卒業しなくてよくなった。
マンガを研究する人もいて、学問として扱う大学もある。そんな中で、なぜあなたの図書館はマンガを置いていないのか?という感じのジャンルになっていくんじゃないかと思って。
山内:
2000年代以降、マンガを学問として扱う動きが出てきましたね。
並行して、マンガの「効能」みたいなものもいろいろ考えられる時代になっていると思います。
今は動画が全盛ですよね。受動的に「見る」ことと、能動的に「読む」ことでは、やっぱり前者のほうがどうしても楽なのもあって、子どもたちもそっちに行ってしまう現状がある。
でも、僕はやっぱり能動的に「読む」行為って、結構意味があると思っていて。
マンガを読むことって、ある意味、自分の中でそのキャラクターになりきる行為ですよね。そういうことを通じて、たとえば、自分と違う立場の人の気持ちを理解できるようになったり、人に共感する能力が身についたりするんじゃないか、とか。
「読む」ことを通じて「いろんな人になってみる」。そのハードルを、マンガが下げるという面もあると思います。
それと、マンガはキャラクターの表情だったり、フキダシの形だったり、いろんな「記号」から総合的に判断して、そこに表現されている感情を読み解くということが求められる。その「答え」はひとつじゃなくて、ちょっと幅があると思うんですよね。
これも活字の本との違いだと思います。
そういう意味で、いわゆる「読書」で身につくとされる、文章力とか、語彙力とは別の能力が必要になるというか。
ミソノ:
言葉での表現力というよりも、「読み解く力」が身につく。小さいコマと大きいコマだったら、描かれていることの衝撃度は大きいコマのほうが上、とか。
たしかに…セリフとか、表情とか、コマの大きさ、効果…そういうものを総合的にどう判断して、どう読み取るかっていうのは、かなり高度な情報処理が求められる気がしますね。
山内:
はい。でも、いまの20代から5,60代くらいの世代というのは、そういうマンガの「文法」が自然と身についている。
そういう共通言語性がおもしろいタイミングに来ているので、コミュニケーションツールとしてマンガを使ってみるのは、図書館も含めてやっていったほうがいいなと思います。
で、活字の本は「読む」比重が大きくて、マンガは「読む」ものでもあるけど「読み解く」ものでもある。
「読み解く」ものである、という点では現代アートもそうだと思いますが、これからの時代は「読み解く」ことができたほうが、いろんな物事への対応力が増すんじゃないかなとも思っているんです。
ミソノ:
図書館にマンガを置く意義を考えるときに、今のお話はすごくピンとくるなーと思います。
マンガを読むことで、共感能力だったり、「読み解く」能力が身につく。一方で、文章力だったり、語彙力だったり、そういうものは活字の本で磨くことができる。図書館だったら、それに同時に触れることが叶うじゃないですか。
ほかの資料と相互に補完し合う関係になることで、よりお互いを高めていける。
マンガもそういうジャンルのひとつになることができるんじゃないかなあと思いますね。
マンガの次は? 図書館に新しく定着していきそうなもの・こと
山内:
マンガは図書館に定着していくんじゃないか。そこで、次に考えたいのが、マンガの次に来る、「図書館に親和性のあるもの・こと」って何かな、ということです。
僕は先ほどもちらっと言ったんですが、やっぱり、現代アートかなと思っているんです。
マンガのさらに先、文字も何もないところから「読み解く」ということに触れられる場として、図書館にもうまく入っていくといいんじゃないかなと。
たとえばYCAM(山口情報芸術センター)は、図書館と現代アートの情報センターが一体になっています。
ミソノ:
なるほどー…。私は、マンガもアートも含めて、そういう「ジャンル」的なものは、ごく当たり前に図書館にあるべきものだと思っていて。
なので、全然違う方向で「図書館との親和性」というものを考えた時に…これからはたぶん、「リラックス」が求められると思っています。
これまでのように「学ぶ」場である以外に、みんながあるがままに、ただ楽しい時間を過ごす場であることが、図書館に求められていくかもしれない。
学生さんは学校でも家でもない、何者にも干渉されない場を必要としているし、その日一日何をしたらいいかわからないおじいさん、おばあさんは「必ずしも何かをしなければいけないわけではない場」を求めているかもしれない。
そういうものを、図書館が受け止めていくことを考える時に、「リラックス」はひとつのキーワードになるのかなって。
山内:
リラックスは、僕もやっぱり重要だと思ってます。そこで考えるのが、電子書籍なんです。
正直、今の若い子は、リラックスした状態でマンガを読もうと思ったら、もはや電子のほうが読みやすいはずなんですよ。
ミソノ:
そうですよねえ。そうだと思います。
山内:
だからそこで、図書館と電子書籍の可能性というか、流れはどうなっていくのかなと思っていて。
ミソノ:
図書館の役割である、収集して保存していくっていうことを考えると、絶対に電子書籍というものをどうするかは出てきますよね。そこをどうするかについては、図書館はちょっと…出遅れてる感じがあります。その検討は結構、急務な気がしますね。
若い人はもうとっくにWebだったり、電子のほうに移行しているけれど、それを図書館がどう受け止めていくのか。
山内:
出版業界のシステム上、なかなか難しい部分もありますね。現状、紙の本は購入すれば所有権が手に入るけど、電子はそうではないので。
ただ、事例としては、手塚プロダクションが手がけている「手塚治虫書店」というものがあります。
これはリアル書店の中に手塚作品のコーナーをつくって、そのコーナー内で届く専用Wi-Fiを介する場合に限り、そこにある作品の電子版が読み放題になっているんです。
技術的にはそういう形で可能ではあるんですよね。権利問題での難しさがありますが。
ミソノ:
でも、たとえば年間契約とか、10年契約とかの形で、ある程度の作品を図書館内で読み放題にするっていうのは、出版社さんにとっては新しい読者の獲得にもつながるんじゃないかなと思いますよね。そのあたりに何か、ヒントがありそうな気がします。
ただ…マンガを含めて、出版そのものがいま、ガラッと変わりつつあるタイミングですよね。
私、いつも思うんですけど…粘土板の時代に、パピルスが出てきた時、絶対もめたと思うんですよ(笑)。
山内:
(笑)。
ミソノ:
だって、ずっと粘土板でものごとを記録してきた人たちが、パピルス!?って。こんなに軽くて…。
山内:
燃えちゃうし(笑)。
ミソノ:
そうそうそう。燃えるじゃん!とか、雨に濡れたらダメじゃん!とか、絶対に言ってたと思うんですよ!(笑)
でも、そこから始まった紙が、記録媒体として長い間、繁栄してきたっていう歴史がある。
山内:
そうですよね。それを考えると、電子書籍の時代って、あまり長くはならないんじゃないかとも、僕は思っていて。
数十年後には、情報は全部コンタクトレンズの内側に映るようになったりするかもしれないし。
ミソノ:
長きにわたって、こういう話ってたびたびあったと思うんです。
たとえば何十年か前、「これからはレーザーディクス(LD)の時代だから、LDをいっぱい買おう!」っていう判断をした図書館もあったと思います。
でも結果的に、今ご家庭からはLDがなくなっている。ただ、そういう記録媒体があったということを図書館が保存していくことには、すごく意義があるとは思うんですけど。
電子媒体にしても、かつて購入したCD-ROMが、機器の方のアップデートでもう読めないとか、そういうことはすでに起こりつつあるわけで…電子書籍でも、きっとそれは起こってくると思うんですよね。
山内:
そう考えると、紙の歴史は長いですからね。
ミソノ:
とはいえ、紙のものを持つには場所が要り、場所を保つにはお金がかかる。そのことにも、みんな薄々…気づきつつありますよね(笑)。
それはマンガが図書館に入っていかない理由にもつながっているとも思うんです。
ひとつには、単純に出版点数が多い、シリーズごとの巻数も多い、物量が多いということ。もうひとつは、その大量に出版されたマンガの中から、どの作品を選んだらいいのかということを、今までの図書館員はあまり体系的に学んでこなかったし、教えてくれる人ももちろんいなかったということ。
そういう意味で、一定のマンガ作品を分類していく今日のワークショップは、どういう作品を自分の館に入れるべきかという考えにも結びつけやすいし、とても面白い試みだと思います。
山内:
ありがとうございます。いい感じにまとめて流れを作っていただきました(笑)。
「マンガ」の定義とは? マンガは「マンガ」でまとめるべき? 参加者Q&A
山内:
参加者の皆さんから、何かご質問、ご感想などあれば伺いたいと思います。
参加者1:
私、自分では全然マンガを読まないのに今日は伺ってしまって。
私の場合は、マンガは絵も字も両方読まなければいけないので、それが大変で。字だけ読んでいくほうが楽だと思っちゃうんです。
ただ、大学で司書課程の講師をしていて、その中でマンガはやっぱり図書館に必要だということで、自分ではマンガのことがわからないので、「これも学習マンガだ!」のハンドブックを取り寄せたんです。
今の大学生くらいの子はみんな、マンガで勉強したって言いますね。学校図書館に必ずある作品というと、手塚治虫作品や『はだしのゲン』になりますが。
ミソノ:
マンガのエンタテインメントとしての面を考えると、選書に関して、学校図書館とか、教育に関わりの深い図書館としては、ちょっとアプローチが難しいのかなという気がしますね。
一口にマンガといっても、手塚さんの作品、「ジャンプ」に載っているもの、あるいは4コママンガもあるし、「タンタン」みたいなものもある。「マンガでわかる宅建」とか、そういうものもマンガじゃない?とも思うし…。
たとえば、『はだしのゲン』は図書館にある。じゃあ『この世界の片隅に』はどうなのか?
参加者1:
それも、今はありますね。
ミソノ:
その、『ONE PIECE』はダメだけど、『この世界の片隅に』は置いてOKみたいな、すごく微妙なところを、現場では判断しているわけですよね。
参加者1:
それを考える時に、「これも学習マンガだ!」の選書リストは、すごく良いと思います。
ミソノ:
それって、なぜ良いと思われました?
私、個人的には、誰かのお墨付きがあるっていうことが、すごく心強いと思うんです。
参加者1:
そうなんですよね。それに、それぞれジャンルに分類されているから、蔵書構成を考えるうえでもすごく良いんです。
私みたいにマンガを読まない人間でも、もう図書館にマンガは絶対に必要なんだなって思いますので、こういうリストはすごく、必要です。
マンガは本当に、日本の代表的な文化になっているわけですし、図書館でも学校でも、文化としてマンガはもっと入れてほしいなと思いますね。
参加者2:
僕が具体的に気になっているのは、マンガと絵本の境目って何だろうと。
「マンガ」の定義ってないですよね。ほとんど絵本と変わらないような作品もある。
ミソノ:
私も、絵本とマンガってすごく近いと思っていて…それは表現の面だけじゃなくて、出版点数がすごく多くて、長い間評価されている作品があって、絵本の中でもフィクションだったり、科学読み物みたいなものだったり…いろんな作品があるということでもそうです。
長い間にだんだん、子どもの発達との関わりがわかってきて、学問として扱われるようになってきたという過程を経ているというところも、マンガに近いですよね。
山内:
結構、いろんな考えがあるんですけど…現状マンガと呼ばれているのは、コマを使って時間を切り出して、それを連続させることで時間軸を動かしていく表現、というものが中心になっているかなと思います。
参加者2:
それと、あるマンガを図書館で探していて、マンガがまとめて置かれているコーナーに行くと、そこにはなくて、専門書のコーナーに入っていたりしますよね。それって、どっちにあるべきなのかなと思って。
ミソノ:
そうですよねー。どうなんでしょう。
マンガはマンガでくくりたい派…いわゆる726に集めておきたい派と、ほかの分類の棚に送り込んでいきたい派と。どっちもありますよね。
726にまとめるにしても、その中に何を入れるのか…さっき言っていた4コママンガとか、あるいはコミックエッセイ、マンガでわかる◯◯とか。何を726に分類するのかという時点で、館による、司書による個性が出てくる。その2段階がありますね、きっと。
まさに今日、そういうお話がこれから出てくるのかなと思うんですけど。
参加者3:
よろしいでしょうか。
学校図書館で司書をしています。私のところでは、マンガは各分類に、たとえば歴史ものは歴史の棚に置くようにしていて。
マンガでくくってしまうと埋もれてしまうものも、分野ごとに分けることで活用される面が、たしかにあるかなと思って。
ミソノ:
なるほどー…そのあたりで難しいなと思うのは、たとえば図書館の福祉の棚を見た時、そこにあるものは基本的にノンフィクションのものを想定しますよね。フィクションの作品の場合は916とか、9類に入る。
でも、マンガって、作品にもよりますけど、フィクションとノンフィクションの線引きが曖昧になりませんか。ノンフィクションのエッセイといっても、必ず面白くするための演出が入ってくる。
それを考えると、やっぱりマンガはマンガっていうくくりになるのかなあとか…悩ましいですね。
参加者3:
そこはよく調べて、検討はするわけですけれども…学校図書館はやはり、学校教育に寄与する場になるので、すべてをマンガとしてひとくくりにするよりは、そのほうが利用価値が高まるというか…「使える」という意味で、作品を大事にする分類になるのかなと。
ミソノ:
スポーツものでも、たとえばリアルなテニスを描いているものもあれば、ありえないスーパーショット!みたいなものを描いているものもある。でも、テニスの楽しさを伝えるということに関しては、十分に寄与しているわけで。
そのあたりは、各々がどう自分の館を作っていきたいかに関わるのかもしれないですね。
「うちの利用者さんには、こう読んでほしい」っていう考え方に。
山内:
そのへんも含めて、今から行うワークショップの中で考えていきたいですね。
では、トークはこのあたりで締めさせていただこうと思います。
ミソノさん、今日はありがとうございました。
ミソノ:
ありがとうございました! 分類の結果を見るのを楽しみにしています。
これも学習マンガだ!図書館分類ワークショップレポート【後編】では、ワークショップの様子や実際の分類結果をお伝えします。お楽しみに!
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【プロフィール】
ミソノ(みその) /司書
図書館で司書として働く傍ら、2009年より秋葉原にある私設図書館をコンセプトにしたカフェ「シャッツキステ」に勤務。マンガ、アニメとのコラボ企画、同人誌やマンガの紹介レビューなどに取り組む。図書館総合展では同人誌即売会企画「としょけっと」を担当。
山内康裕(やまうち・やすひろ) /これも学習マンガだ!事務局長・選書委員
1979年生。法政大学イノベーションマネジメント研究科修了(MBA in accounting)。2009年、マンガを介したコミュニケーションを生み出すユニット「マンガナイト」を結成し代表を務める。また、2010年にはマンガ関連の企画会社「レインボーバード合同会社」を設立し、“マンガ”を軸に施設・展示・販促・商品等のコンテンツプロデュース・キュレーション・プランニング業務等を提供している。「さいとう・たかを劇画文化財団」理事、「これも学習マンガだ!」事務局長、「東アジア文化都市2019豊島」マンガ・アニメ部門事業ディレクター、「立川まんがぱーく」コミュニケーションプランナー等も務める。共著に『『ONE PIECE』に学ぶ最強ビジネスチームの作り方(集英社)』、『人生と勉強に効く学べるマンガ100冊(文藝春秋)』等。