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2018.10.10

「これも学習マンガだ!」にとって大切な存在であり、注目もいただいている図書館業界。

今回は「これも学習マンガだ!」に初年度から協力会社として関わっていただいている図書館用品メーカー・キハラ株式会社の木原正雄さんと、事務局長・山内康裕との対談をお届けします。

 

「これも学習マンガだ!」発足から3年。マンガと図書館の関係はどうなった?

山内:

キハラさんには、初年度からさまざまな形で「これも学習マンガだ!」にご協力いただいています。プロジェクトに関わってみて、どんな感触を持たれましたか?

 

木原:

反響はやっぱり、すごくありますね。マンガを図書館に置くべきだっていうのは、ずっと提唱していた人もいましたから、こういうものが出せたのはすごく良かったと思います。

 

山内:

何か課題とか、こうしたらもっと良いなと思う部分とかはありますか?

 

木原:

マンガを置く図書館も少しずつ増えてはきましたけど、良くないなと思ってるのは、分類を「マンガ」にまとめてしまっている図書館が多いことなんですよね。

本当は、学術書とか一般書とかと一緒にマンガも並べてほしいですよね。マンガも活字の本も、同じ1冊の本ですから。

 

山内:

たとえば、図書館で広く使われている日本十進分類法(NDC)を、「これも学習マンガだ!」で選んでいる200作にも付しておくという案も出たじゃないですか。これはどう思われますか?

 

木原:

指針としてはあってもいいかもしれないですよね。図書館員さんが図書館に置いているすべての本を熟知しているかっていうと、必ずしもそういうわけにはいかなくて、実際には表紙とか紹介文とかを参考に配架するわけです。そういう時にNDC番号がついていると、現場では参考にしやすいのかもしれない。

ただ、ジャンル分けとしてはNDC分類だけでなく、「これも学習マンガだ!」で独自に規定している11ジャンルもあるといいと思います。

 

山内:

たしかに、図書館に伺った時にマンガについて聞くと、地域で寄贈されたものがまとめて1か所に置いてあるだけだったりしますからね。

 

木原:

そうなんです。寄贈を受け入れるなら、一般書だって寄贈してもらえばいいのに、なんでマンガだけ特別扱いするんだろうと思って。

僕はそういう時に、活字の本と比べてマンガに対しては、図書館員さんからまだちょっと距離があるのかなって思ったんですよね。

 

山内:

そのあたりで僕も思うのは、図書館員さんに話を聞くと、「一般書を読んでもらうために、その導入としてマンガを使いたい」という方が多くて。マンガと活字の本は図書館にとってまだ並列ではなくて、中心と考えられているのはあくまで活字の本なんだな、と。

 

木原:

そうなんですよね。同じ本の文化だと思うんですけど。日本文化としてのマンガというものが、海外からはすごく注目されているのに、国内では冷ややかな目で見られているところがあるじゃないですか。そのギャップが歯がゆいというか…。

 

山内:

海外ではまずアニメから入って、その原作としてマンガがあるということで、やっぱりその「元」になっているものへのリスペクトという部分もあると思います。

 

サードプレイスとして、地域の情報集積地として…図書館とマンガの役割

山内:

立川まんがぱーくなど、マンガが読める施設も増えています。

木原さんから見て、ああいうところはどういう印象ですか?

 

木原:

僕は大好きです。子どもたちが寝っ転がったりしながらマンガを読んでいる自由さがすごくいいですよね。リラックスしている感じが。

図書館っていうとどうしても、家の中でたとえると勉強部屋みたいなイメージになってしまうので。そうじゃなくて、コーヒー飲んだりしてくつろげる空間としてとらえてもらえるのはいいですよね。今は図書館でも、カフェを併設しているところも増えていますけど。

立川まんがぱーくは、建物としては「子ども未来センター」で、複合館になっているところもいいですね。お父さんお母さんが子どもと一緒に行って、1日自由に過ごせる。

 

山内:

勉強する場、きちっとする場じゃなくて、交流施設としての図書館というイメージですね。

 

木原:

公民館図書室とか、地域に根差した図書館はあんなふうになっているといいなと思いますね。

 

山内:

子どもたちにとって、家でも学校でもない第三の居場所=サードプレイスの必要性が注目されていて、図書館もそういう場になるのでは、という話もあります。

そのあたりの取り組みで、何か印象的な事例などはありますか?

 

木原:

そういう話でいうと、鹿児島の指宿図書館がいい取り組みをしていて。

指宿というところにはもともと、古くから移動図書館の文化があったそうなんです。しばらくなくなっていたんですが、「そらまめの会」というところが指定管理者になって、移動図書館を復活させようということで、クラウドファンディングをしたところ、1千万円以上の支援が集まって、ブックカフェ号っていうのがオープンしたんです。

今は指宿駅の駅前を借りて展開しているみたいですね。

山内:

ここは貸出対応はしているんですか?

 

木原:

貸出はしてないです。だから本当に、図書館っていうよりも「ブックカフェ」ですね。僕も見学に行ったんですけど、子どもたちがわーっと集まっていて、それを見た時にすごく、サードプレイスとしての可能性を感じました。

ここには司書さんがいて、読み聞かせもするし、レファレンスもするし、カフェもやる。

この司書が、ライブラリアンがいるっていうのが「移動図書館」の定義らしいんです。

今までの図書館員というのは、図書館の中で仕事をしていた。でも、これから大事になってくるのは図書館のアウトリーチ。街中に図書館が出ていくことなんだと。

 

山内:

来てもらうサードプレイスじゃなくて、こちらから行ってそこにつくるっていうことですね。

行き場のない子どもたちにとっては、「行く」っていう行為自体がけっこうハードルになるかもしれないし、近くまで来てくれるっていうのは違いますよね。

 

木原:

もともと移動手段なので、たとえば今回の北海道とか、災害のときに被災地に行くこともできるっていうのも大きいですね。

 

山内:

そういう意味でも、都心よりも地方に行ったときのほうが、図書館という存在の担う役割が大きい気がしますね。それがあるかないかで、街の文化度が変わってくるというか。

 

木原:

マンガって、旅との相性もいいじゃないですか。マンガに登場した“聖地”を巡礼するみたいなこともあるし、逆にたまたま行った土地で、そこが舞台になっているマンガがあれば読んでみたくなる。旅行に行ったときに、その土地の美術館とか博物館とかは結構みんな調べて行くんですけど、図書館ってなかなかそういう存在にはなっていないですよね。でも、本当は図書館は、地域のインフォメーションセンターとして機能する場所ですから。

 

山内:

郷土資料とか、その地域が描かれているマンガが置いてあったりするといいですよね。

 

もっと図書館にマンガを入れていくために、「これも~」ができること

山内:

お話は戻りますが…図書館にもっとマンガを置くべきだという考えはあって、それは「これも学習マンガだ!」が目指すところでもあるわけですが、なかなか進まない。

 

木原:

先ほど出たような、マンガというものへの距離の話以外でよく図書館員さんが言うのは、まず巻数が多くて、シリーズで揃えなければいけないというのがありますね。

 

山内:

ひとつ面白い事例で、「全巻1冊」っていうのがあります。

これ、見た目はコミックスみたいに見えるんですけど、この1冊の中に、例えば『北斗の拳』全巻分のデータが入っているんです。インターネットを介してデータをダウンロードするわけじゃないので、データを軽くする必要がない分、画像の解像度も高くて、一般的な電子書籍と比べると細かいところまでよく見えたり…。

 

木原:

これは面白いですね~。全巻見られるっていうのがいいですね。

 

山内:

小さめの図書館とか、冊数が入れられないっていうところにはこういうのもありかと思います。貸出はできないとは思うんですけど。

 

木原:

でも、今は図書館も滞在型の施設として求められてますから。座ってゆっくり読んでいただきたいですよね。

あと、マンガを入れにくい理由としては、「ハードカバーじゃないから傷みやすい」っていうのもありますね。

 

山内:

図書館は資産として本を購入しているので、劣化しやすいつくりの本は入れにくいというのはあるでしょうね。そういうところへのアプローチとして何ができるか…例えば、「これも学習マンガだ!」で選出しているマンガのハードカバー版を、図書館だけで流通させるとか。

今、図書館って全部で何館くらいありますか?

 

木原:

公共図書館と学校図書館と、足したら4万くらいですかね。大学図書館も入れればもっとあります。

 

山内:

それくらいあれば、1館に1冊ずつとして、出版社としては専用に発行できる部数になりますね。可能性としてはあると思います。

 

木原:

装丁が揃っているといいんですよね。これはマンガに限らずですけど、どうしてもデザインに趣向が凝らされていて、目移りしちゃうような感じになるから。

ヨーロッパの図書館では、蔵書を「コレクション」と考えるので…例えばデンマークの図書館なんかだと、図書館に入れる本の表紙をはがして、製本し直すんですよ。

だから、出版社のほうでそういう形で出すっていうことじゃなくても、図書館側でカバーをつけ直して、タイトルも改めて文字で入れて、専用に製本するっていうのもいいと思います。

 

山内:

それ、ワークショップとしてちょっとやってみたいですね。

コミックスだけじゃなくて、たとえばマンガ雑誌のお気に入りの1話を持ってきて製本するとか。

 

木原:

難しくないと思いますよ。

マンガの単行本とか雑誌って、ありがたいことに判型が統一されてますから。

 

山内:

そうなんですね! お気に入りのマンガを綺麗に製本し直すっていうのは、マンガ好きはやってみたいと思いますよ。電子書籍もある中で、今は紙書籍1冊1冊の価値を高くとらえる人が多いですし、親から子へ継承するものとしてのマンガという意味でもいいかもしれません。

そのあたりの試みも含めて、もっと図書館にマンガを入れ込んでいけるような工夫はしていきたいですね。

 

木原:

全巻は無理でも、「これも学習マンガだ!」200作の1~2,3巻だけでも置いてもらえるといいですよね。

やっぱり「これも~」で選んでいる作品は、5年後10年後まで残ると思うんです。その選書を図書館員さんが自分たちでできるかっていうとできなくて、やっぱり山内さんとか、選書委員の先生方が議論をして200作選んだっていうことが、すごく大切だから。

良質な本を置くというのは図書館の役目であるわけで、そこは活字の本と区別することなく、取り組んでいければと思いますね。

 

山内:

まだまだチャレンジできることはありそうですね。今後ともよろしくお願いします!

今日はありがとうございました。

***

 

【プロフィール】

木原正雄 キハラ株式会社 マーケティング部部長

1973年東京生まれ。図書館設備、用品を扱うキハラ株式会社にて商品企画・開発を担当、

マンガラックをマンガナイトと一緒に商品化。合理的配慮関連商品や図書館グッズといった新しい分野への取り組みに力を入れている。趣味はスキーと全国図書館行脚。

 

山内康裕 マンガナイト代表/レインボーバード合同会社 代表社員

1979 年生。法政大学イノベーションマネジメント研究科修了(MBA in accounting)。2009 年、マンガを介したコミュニケーションを生み出すユニット「マンガナイト」を結成し代表を務める。2010 年にはマンガ関連の企画会社「レインボーバード合同会社」を設立し、マンガに関連した施設・展示・販促・商品等のコンテンツプロデュース・キュレーション・プランニング業務等を提供している。主な実績は「立川まんがぱーく」「東京ワンピースタワー」「池袋シネマチ祭 2014」「アニメ orange 展」等。「これも学習マンガだ!」事務局長、「一般社団法人 さいとう・たかを劇画文化財団」理事、「一般社団法人 国際文化都市整備機構」監事も務める。